緑色の玉がほどける 梨山烏龍茶
台湾の高い山で育ったお茶
え、海藻?まりも?と一瞬思わせるようなこの球体、実は台湾の非常に高い山で作られる烏龍茶の一つです。
なんと標高2,200m、富士山でいう5合目付近の高さで育ったこのお茶は「梨山烏龍(リサンウーロン)」という名前で、その美しく涼し気な見た目を裏切らず、お湯を注ぐとまるで森林浴をしているかのようなさわやかな香りを立ち昇らせながらゆっくりとほどけていきます。
自然光に照らされて鮮やかに輝きながらほどけていくその様は、見ているだけであっという間に時間が過ぎ去るほど、目を奪われます。
口に含んでからのおどろき
さわやかな香りに包まれながら口に含むと、最初はおいしい緑茶のような口当たり。渋みがなくフルーティーな甘みに満たされます。
しかし実は、最初の一口をごくりと飲んだその後からが本領発揮です。
口の奥からのど、鼻孔に抜けるあたりがずっと清々しい香りにつつまれたまま。
夜露に濡れた早朝の森を散策しているかのようなすばらしい「余韻」が長く続くことに驚くはずです。
そして私たちが出会うお茶の多くは、長くお湯に浸しておくと濃くなりすぎたり渋くなりすぎたりするものですが、このお茶にはそんな概念がありません。
浸しっぱなしで飲み進めるほどに、爽やかさの中に甘さが増していき、香りは果実のような香りに変化をしていきます。
むしろ、茶葉は取り出さない方がおいしい。
お茶がグラスの半分ほどになったら、新たにお湯を注ぎ足していきましょう。
厳しい山岳地帯で霧に守られながらゆっくりと育った梨山烏龍は、ゆっくりと抽出されるため、7回お湯を注ぎ足しても風味を損ないません。
次の予定の事は何も考えず、ただ開いていく美しい茶葉を眺め、大自然が凝縮したようなその風味を楽しんでください。
日常にふわっと浮き上がる瞬間を
考えてみると、お茶は栄養をとるために飲む、生きていくために必須のものではないですよね。
事実、私たち日本人がお茶に出会ったのはおよそ1,000年前の鎌倉時代。
中国などの一部の例外を除いては、ヨーロッパやアメリカ、アフリカ諸国など多くの国がお茶と出会うのはたった200~300年前です。
それまでは人類はお茶無しで生きてきたのです。
体を作り、維持するだけならば栄養素的には他のもので代替できる素材です。
私たちが「お茶の時間」を持つとき、それは休息であったり、人とのコミュニケーションであったりと様々ですが、連続する日常生活の中からふわっと浮き上がるような、一種の句読点のような瞬間が生まれる時間だと思います。
だからこそ、私はお茶という存在に大きな可能性を感じ、とても大切に、とても重要なものだととらえます。
お茶専門のバイヤーとして、15年間世界中を巡り出会ってきた、日常に驚きと感動をもたらしてくれるお茶の数々をこれからご紹介していきます。